《三島霜川年譜》の周辺
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飯田政良と「女の夢」
投稿者:
2反田
投稿日:2008年 9月16日(火)02時51分12秒
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2008/08/25の日記の、「漱石書簡に登場する三島霜川」についてですが、岩波の縮刷版漱石全集(1980)にあたったところ、《三島霜川といふ人》は《○○○○といふ人》と伏字にされていました。いつからいつまで伏せられていたのか、なぜ伏字から復元できたのかが疑問です。
さておき、同書簡により、三島霜川を頼ろうとしたことが知られる飯田政良(号・青涼)ですが、目立った文業としては、明治44年6月から9月にかけて『大阪朝日新聞』に、小説「女の夢」を<徳田秋聲・飯田青涼合作>名義で連載しています(典拠:高木健夫『新聞小説史年表』)。
同作は後年、単行本『女の夢』(大正14年 事業之日本社 菊版 368頁 桃色布装 箱入 2円30銭)として刊行され、序文で飯田個人の作であったことが明かされました。単行本版「女の夢」は約90節から成ることからみて、ほぼ新聞連載時の体裁を留めているものと推測されます。
同書は以下の文章を収録します。
・「女の夢」に序す(徳田秋聲)
・自序
・女の夢
・附録 山の中の小學校へ(青涼・秀子 合記)
このうち「「女の夢」に序す」は『徳田秋声全集』に収録されましたが、小説本文は未収録のようですので(全集閲覧の機会がないので、OPACで内容細目をチェックしたのみですが)、以下に梗概をまとめました。
―――「女の夢」あらすじ―――
神楽坂の旅館に住む青年・野澤一郎は、帝大卒業後、婦人雑誌「女の世界」を編集している。ある日、雑誌の愛読者・福永俊子が訪ねてくるが、会わずに返してしまう。俊子は一郎の従妹・野澤光子の友人だった。
光子の父・野澤男爵は有力な銀行家である。ある日男爵と光子は、邸近くを散策中、姉のために水彩画を描いている少年に出会う。光子はその画に強く惹かれ、突然の豪雨の中、画を持ち去ってしまう。少年は画を取返そうと跡を追うが、途中で雷に打たれ死ぬ。
少年の家に悲報がもたらされる。少年の姉・妙子は高等女学校に通うが、学問と音楽に将来の進路を決めかねるうち、演奏会で知合った琵琶師・鈴木絃心に身を汚されてしまう。妙子は光子と親交を深め、一郎に思いを寄せるようになる。
「東京新聞」記者・鈴木春松は、少年の不審死を男爵家のスキャンダルに仕立てようと、野澤家の使用人・お久を篭絡し、夜陰に乗じて少年の画や光子の日記を盗み出す。他方、春松は音曲界の風俗紊乱を実名入りで暴露記事にし、これを見た妙子は不安にかられる。
光子は、一郎の旅館の女中・お霜の天涯孤独の境遇に同情し、小間使として野澤家に呼び寄せる。光子は少年の死と新聞記事、夜盗の侵入とに心労が重なり神経衰弱となる。
一郎は光子との結婚を望むが、男爵は一郎の出生の秘密を明かし拒絶する。一郎は実の兄妹の間に生れた破倫の子であった。思いを寄せられていたことを知った光子は旅館に向かうが、すでに一郎は書置きを残し行方は知れない。光子は絶望し旅館の窓から身を投げる。
光子は一命を取りとめるが、家を出る決意をする。春松は逮捕される。妙子は妊娠していたことが判明し、一郎の妻として野澤家に引き取られる。お霜は行方不明の一郎を探す旅に出る。(完)
―――――――――――――――
新聞連載を読了して納得した読者がどれだけ居たかは疑問です。
「高等遊民」、「新しい女」と思しき人物を配したことに1910年代の時代性を感じます。しかし内容は自然主義小説とも家庭小説とも探偵小説ともつかず大混乱のまま完結します。おそらく飯田は、執筆時に所有していた創作のアイデア全てを、この一篇に詰めこんでしまったのではないでしょうか。
作者の主観的意図としては、《少女時代の純眞な憧憬の貴さ、處女の持つ不思議な心の弾力、貞操の神秘》(「自序」)を描いたとのことですが......。
なお看過し難いのが作中に挿入される滑稽的要素で、少年の死が野澤邸に知らされる場面では、女中が暖炉に倒れたり真っ逆さまにイスに嵌まって足をジタバタさせたりのスラプスティックを演じ、悲報が家族に知らされる場面では、少年の父親が、少年が光子に悪さをしたものと早合点して詫びるという茶番が挟まれます(各々結構な行数を割いています)。細かい点ですが、相互に無関係の悪役2人がともに鈴木姓というのもどうかとおもいます。
このような小説に対して、徳田秋声は合作名義を許諾したのです。
「自序」によれば、この時点で作品は完成原稿であったこと、また『大阪朝日』掲載にゴー・サインを出したのは秋声にとどまらず、夏目漱石、長谷川如是閑、渡辺霞亭であったことが述べられていますが、作品の品質に鑑みれば驚くべき事実のように思われます。
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